理事長からのご挨拶

「つくば文化」の形成を目指して創刊
-50号達成を機に新たな目標を設定-

一般財団法人総合科学研究機構
理事長 西谷 隆義

西谷顔2はじめに

 此の度、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)が発行している『CROSS T&T』が、「創刊」から「50号」を迎えることとなった。平成11年1月から数えると、16年半に及ぶ活動である。この間、CROSSでは「新しい大学システムに関する調査研究」を継続的に行い、その成果を2回(平成12年5月/平成23年3月)にわたり「提言書」としてまとめ関係者に配布してきた。これらの活動に対し各方面から寄せられたご協力ご支援の環は計り知れないものがあり、本「記念号」の発行を機に厚く感謝の意を表する次第である。
 そして、この機関誌が今後とも発刊を続け、「つくば文化」の形成にさらなる寄与ができるよう、CROSSの「これまでの歩み」を改めて紹介することとする。

1.「Expoつくば-85」を契機として
 昨年(2014年)は、筑波研究学園都市建設の閣議了解から50年を経過した「記念式典」が催された。そして、今年(2015年)は、国際科学技術博覧会「Expoつくば-85」から30年を記念するイベントが、博覧会に関係したそれぞれの機関で行われた。30年という年月を経た現在でも「Expoつくば-85」が継がれているということは、現在の「つくば」がこの科学博覧会を契機として誕生したと言っても過言ではないほどに、大きな意味を持っていたのである。
「Expoつくば-85」の開催が話題とされ始めたのは昭和54年のことであった。丁度この時期、筑波研究学園都市は“概成”という言葉が使われた。このことは、当初計画された国公立研究機関の全てが移転を完了したということを意味した。しかし実際には、研究機関としての建物や施設が建設され、業務が開始されたというだけのことで、“街”としての体裁は形成されていなかった。
 そうした状況の中での「Expoつくば-85」の開催が決定は、各方面から歓迎された。この事業を成功させることにより「街作り」が飛躍的に進み、その周辺地域の整備も促進されると期待されたからである。実際に昭和55年(1980年)以降、茨城県南地域の環境は目に見える形で大きく様変わりをし、先端企業の進出なども加わり、全体が活発化し始めたのである。これらの動きに関連する形で求められたのが、国公立研究機関が持っている「優れた資源」(人材・施設・システム・研究成果など)を地域社会の発展に還元できないかということであった。具体的には、教育問題としての「人材育成」であり、産業振興としての「産学連携」、情報交流のための「人的ネットワークの構築」といったもので、総論としては新しい「つくば文化」の形成というものであった。

2.「産学連携事業」の開始
 そこで計画されたのが、「小さく生んで大きく育てる」という理念のもとでの私学による「高等教育機関の創立」であり、研究機関で生まれた研究成果を「産学共同で活用する連携システムの構築」というものであった。当初、これらの事業は別個のプロジェクトであったが、それぞれの関係者は共通していたため、相互に協議し密接に協力し合う形で進められた。
 前者については、「Expoつくば-85」が開幕した直後の昭和60年9月に、「設立準備財団」が設立され、2年後の昭和62年2月に「学校法人筑波研究学園(TIST)」が誕生した。この設立には、近藤次郎国立環境研究所長、福田信之筑波大学長、西川哲治高エネルギー物理学研究所長、竹林寛建築研究所長、河本哲三研究交流センターが設立世話人として事業の企画に当たられた。ここでは特記すべきことは、その計画推進に、高良和武・高エネルギー物理学研究所・東京大学名誉教授が代表者となれたことであった。
 後者の「産学連携システム」の構築については、高エネ研と民間企業などが参加する形で昭和63年に「財団法人真空科学研究所」が設立された。具体的には石丸肇高エネ研教授が核となり、高良和武先生らが支援するというプロジェクトであった。この当時は、産学連携に対しては“官民癒着”という見方もあり、必ずしも社会全体から認知され歓迎されるものではなかった。現在は、「ベンチャー企業」に国立研究法人が支援することに対し好意的見方がされているが、当時の研究環境は現在とは大きく異なるものがあった。
 このふたつの事業は、“官尊民婢”という厳しい社会状況のもとではあったが順調に成長し、「つくば」の地において年毎に注目される存在となっていった。そして誕生して2年も至ずして時代が「平成」へと移り、“バブル経済”が発生したのである。この異常状態は真空科学研究所の運営にも大きく影響し、石丸教授は平成9年10月疲労ため逝去するという事態となった。

3.「一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)」の発足
 こうした状況の中で、“不幸中の幸い”であったことは、ふたつの法人の関係者が共通していたことであった。関係者間で協議した結果、真空科学研究所を現在の「一般財団法人総合科学研究機構」へと改組する方針が出された。この手続きには、解決しなければならない問題が多く存在したが、さらに好都合であったことは「財団法人真空科学研究所」と「学校法人筑波研究学園」の監督官庁が同じ「茨城県教育委員会」であったことである。そして、平成10年9月5日、一般財団法人総合科学研究機構が誕生したのである。「新生CROSS」の発足である。
 ここで早速問題となったのは、CROSSの具体的事業として何を位置づけ、その財源を如何に確保するかであった。これに関しては、真空科学研究所時代から関係のあった民間企業などからの理解と協力の結果、「明日のつくば」を目指して行くことが確認された。そして、事業目的に多くの“夢”が盛り込まれた。それらのことを対外的に説明するため、『事業の概要―科学と文化の融合―』(平成10年9月)が作成されたが、その項目は次のようなものであった。
①教育・研究機関等との連携強化
②地域社会との産学協同の促進
③地域社会との協力体制の確立
④国際化などボーダレス社会に適応した人的交流
⑤高度情報化社会への積極的対応
⑥総合科学からの諸問題の解決
⑦未開拓分野への挑戦
 さらに、これらの事業を行うため、CROSSの所在地(事務局)をTISTの施設内に移し、TISTとの連携を強化することが決められた。「研究会の開催」や「人事交流」「機関誌の発行」などについて、共同で取り組む体制が必要とされたのである。
 このことは、TIST側にも好都合であった。TISTは「実践的技術と知識を教育する高等教育機関」として活動しているが、その法的位置づけは「専修学校専門課程」というもので学校教育法の上では正式な「教育機関」とはされていないのである。そのため、国公立研究機関と共同事業を行う際に多くの問題点が生じた。それを解決する手段として「CROSS」は有効に機能したのである。
 
4.CROSSの「活動目標」と「運営方針」
 CROSSでは、限られた「財源」と「人的資源」のもとで事業に取り組むため、効率的運用を第一義として掲げることとした。そこで考案されたのが「クロス研究員」「クロス研究プロジェクト」の制度である。そして次のような「活動目標」と「運営方針」を定め、関係者に協力を求めた。
<活動目標>
(1)「活躍の場」の提供
 研究者や技術者などが組織から離れて、その能力や経験を活かせるよう「活躍の場」を提供する。
(2)「活性化の仕組み」の構築
 筑波の持つ豊かな「リソース(人材・施設・設備・組織・ノウハウなど)」が、より有効に機能するよう「新たな仕組み」を構築し、地域全体の活性化をはかる。
(3)「新つくば文化」の形成
 科学技術の振興に加え、人文科学などを含めた総合科学の立場から「新つくば文化」の形成につとめ、21世紀の成熟社会に寄与する。
(4)「新しい街作り」への貢献
「つくばエキスプレス」の建設や情報通信網の構築などハード面の動きに合わせ「人的ネットワーク」の整備など、ソフト面からの「新しい街づくり」に貢献する。
<運営方針>
(1)機構の部内組織である事務局は「小さな組織」とし、併せて、調査研究などのを行う事業主体は独立した「部外組織」として位置づけ、業務全体の効率化を図る。
(2)「等距離」「等方位」の姿勢
 研究機関や民間企業・公益団体等、つくばに立地する全ての組織と「等距離」「等方位」の姿勢で臨む。
(3)「産」「学」「地」「民」との連携システム
 機構の活動目標は多分野に及んでおり、その実現には、外部機関との連携関係は不可欠である。よって、機構の活動は、「産」「学」「地」「民」との協力関係のもとで行うものとする。

5.機関誌『CROSS通信』から『CROSST&T』へと展開
「財団法人真空科学研究所」(昭和63年11月10日設立)を「財団法人総合科学研究機構」に改組することが認められたのは「平成10年6月22日」のことであった。この改組に伴い「研究員制度」や「研究プロジェクト制度」を設けた、その運用のためには、「審査委員会」「企画委員会」「事業委員会」などが必要となった。すなわち、「乏しい財源」と「少人数体制」のもとでのCROSSの活動にとって、これらの委員会を如何にして運用するかが、成否の鍵となった。
当初は、各委員会の委員就任を承諾が得られるかどうかが心配されたが予想以上の協力者が得られ、事業は順調にスタートしたのである。
 「つくば」に立地する研究機関は国の省庁に属し、「縦割り組織」で構成されていることは以前から指摘されていた。それを補うため、新しいCROSSは「組織横断的な横型社会」を提唱したのであった。これについては、特に、研究者OBからは好意的に受け入れられた。その結果、「情報交流の場」としての「機関誌の発行」が各方面から受入れられたのだと思う。その中核的役割を果たしたのが「編集委員会」であった。次に話し合われたのは、原稿執筆著の選定であった。当初は、研究員による研究プロジェクトを対象とすべきとの意見が強かったが、それには限界があった。それを解決するため「つくば全体で注目される話題」を中心にしてはとの意見に集約された。それには、編集委員による「つくば情報」の収集から始める必要があった。
 ここで問題となったのが、原稿執筆を如何に依頼するかであった。ここでの最大の問題は、「原稿執筆料」についてであった。「新生CROSS」には特別の収入はなく、TISTからの委託による調査事業収入が主なもので、それ以外のものは極めて少なかった。そうした事情から「執筆料なし」の方針を打ち出さざるを得なかったのである。当然、編集委員をはじめ企画委員も審査委員も「手当報酬なし」であった。それにも拘わらず、CROSS関係者のみならず、多くの原稿執筆者からも「明日のつくば」のもとで協力を頂いた。そして、此の度、今日の「50号」を迎えることが出来たのである。
 CROSS機関誌の発行が定期的に行われるに従い、「研究プロジェクト」や「研究発表会」の活動も定着化することとなった。まさに「つくば文化」の形成が着実に進められるようになったのである。

6.CROSSは「J-PARC利用促進機関」に高度情報科学技術研究
 CROSSは、平成10年10月以降、独自の研究制度のもとで活動に取り組み、それを並行して(『CROSS通信』(1~4号)『CROSSつくば』(5~35号)『CROSST&T』(36号~現在))を発行してきた。この機関誌は、研究機関ばかりでなく行政機関や民間企業にも配布してきた結果、「CROSS」の名は、広く知られるところとなり、予想もしない「大事業」を始める契機を作ることとなった。それは、「大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)」の利用促進業務を文部科学大臣より受託したことである。
 最近の科学技術は、“ビック・サイエンス”の言葉に象徴されるように大型化し、その運用には公平・公正が求められることとなった。そのために、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」が制定され、現在は「CROSS」と「J-PARC(MLF)」と「高輝度光科学研究センター(JASRI)」(西播磨)「高度情報科学技術研究機構(RIST)」の3機関が対象とされている。
  CROSSは、平成23年4月より、文部科学大臣の認定を受け、「研究課題の選定」や「研究施設の利用支援」などの業務を行っている。こうした先端科学分野の業務をCROSSが受託した背景には、CROSSの16年余に及び地道な活動と「あらゆる組織に対する等距離・等方位」という運営方針が評価されたものと思われる。この法律による認定期間は「5年間」とされており、CROSSは平成28年3月には「第Ⅰ期」が終了する。そこで、現在は、平成28年4月から始まる「第Ⅱ期」に向け、必要とされる更新手続きを進めている。

7.「新しい大学システム」の実現に向けて
 「Expoつくば-85」の開催を契機として設置された「学校法人筑波研究学園(TIST)」及び「一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)」の共通目標は、つくばのリソースを活用した「実学重視の高等教育機関」と「産学共同による連携システム」を実現させることにあった。このうちの後者については、時代の変化の中で、序々に具体化されてきているが、前者については、未だに実現していない。
 しかし、平成26年度に入ってから動きが活発化してきたのである。それは、政府の教育再生実行会議により提案された「職業重視の高等教育機関」が具体化されようとしていることである。現在、文部科学大臣中央教育審議会に諮問され平成29年4月には今後は「設置基準」などが制定され、年間にはその姿が明確化するものと思われる。「専門職大学」(仮称)が発足することが確実視されている。 また、つくばに立地する教育研究機関などと連携した「新大学システム」についても、茨城県やつくば市の支援のもとで具体化されようとしている。
 これらのプロジェクトには、TISTとCROSSは深く関与しており、永年の課題も実現に向け前進しているのである。こうした段階まで来れたのも、『CROSST&T』の発行により、強い情報を発信し続けた結果と言って良いと思う。

むすび
 『CROSST&T』の「50号発行」を記念しての原稿を書くこととなった。そこで、本来であれば、これまで執筆に協力して頂いた方々に謝辞を述べるべきであるが、「CROSSの歩み」の中での協力に焦点を当てることとなってしまった。それは、この機関誌発行がCROSSの中核的業務であったことを意味している。
 この機関誌の発行により、「つくば文化」の形成にいささかの貢献が出来たのではないか。そして現在の『CROSST&T』によって、つくばと東海村の情報交流が促進され新しい時代に向けての時代が開けることを期待したい。ここまで来れたのも、CROSSに寄せられたご支援ご協力の結果であると思う。

 

 

平成27年6月

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2016年3月24日現在のものです。