総合科学研究センターの研究成果

ナミテントウの越冬飛翔行動を観測する ―身近な虫の“生き様”の謎を紐解く―

クロス研究員 木村 滋

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要約
ナミテントウ(Harmonia axyridis Pallus、ナミ)の越冬飛来集団の定点観測をおこなって、彼らの繁殖・生存戦略の一端を明らかにした。ナミ集団は自宅の日溜りに晩秋の小春日和の日に集中して飛来した。その飛来数(捕獲数)は年次、日次、時刻によって異なっていたが、二紋型などの4つの成虫斑紋型分布比率はおおよそ一定の値であった。このことから、ナミは白壁が発する熱線に誘引されて、繁殖地から越冬場所に集合するものと推察した。また、越冬集団の形成は種の存続のためのランダム交尾を可能にし、斑紋型の多様性の維持に貢献すると考察した。
Key word:ナミテントウ、集団越冬、定点観測、成虫斑紋型分布比率、多様性

 晩秋の野山の岩陰や家屋の片隅にナミテントウ(Harmonia axyridis Pallus、ナミ)が集まっている写真をみかけることがあります(谷岸、1976、高橋、1995)。ナミが冬を越す準備をしているのです。

写真1 ナミ越冬集団の捕獲場所
ガスボンベを中心にして、面積4m2の範囲以内にナミ成虫は飛来、壁に留まり、屋根に向かって歩いて、建物の中に消える。


 昆虫は、冬が近づくと、あまりエネルギーを使わない卵や蛹の形態となって冬を過ごします。冬の間は餌となる動植物もなく、寒さも厳しいので自らの代謝機能を春の餌のある時期と上手く揃うように調節しているのです。

写真2 ナミ群団
二階西側の窓枠に集まる。


 ナミ成虫が集団で越冬している写真をみると、「何故、成虫態で越冬するのだろうか」「集団で越冬することにどんな意味があるのだろうか」「冬の前まではバラバラに生活していたのにどのようにして集合するのだろうか」などと考えてしまう。

 これらの疑問に対しては、研究者仲間でもいろいろな意見があります。虫たちが集団で越冬すれば、1)天敵などの攻撃に対して捕食の危険を減少させる防衛効果があるからだ、2)集団生活は単独よりも乾燥などの生息環境をより良い状態に保つことができ、生存率を高めることができるからだなどの考え方があるのです(近ら、2003)。

 しかし、これらの考え方については納得できる説明がされていません。冬の間ナミ集団が天敵に襲われている写真もなければ、生息密度効果が生存率に及ぼす実証実験も行われていません。後者の場合は、高密度環境下では何故生存率が高いのかの科学的な証明がなされていないのです。

 ある日、つくば市郊外の自宅の白壁にナミ群団が飛来する姿を目撃した(写真1&2)。ナミの野外観察を始めて、多少の知識をもっていたが、初めての経験であったので驚いた。研究者“たましい”が再びめばえて、ナミを捕獲して個体数や斑紋型分布比率を調べた。すると、これまで報告されているナミの斑紋型の変異に関するデータと異なっていた(駒井ら、1956)。そこで、数年間の観測結果をまとめて発表した(木村、2008)。

図1 年次別捕獲数の変動


 しかしながら、ナミの捕獲数と斑紋型分布比率との関係は多少理解されたものの、越冬場所への飛来と気象などとの関係については一定の法則性をみだすことができなかった。科学的なデータを得るためには、さらなる観測が必要であったのだ。

 今回は、これまでの観測データに新しいデータを加えて、ナミの越冬飛翔行動を詳細に解析、繁殖・生存戦略について考察した。

ナミの越冬飛来集団の年次別変動

 ナミの集団飛来は平成12年に確認され、その後平成16年から平成29年までの14年間に亘って毎年捕獲個体数を調べた(図1)。15年間の捕獲数は5886匹で、平均393匹であった。最高の捕獲数は、平成26年の1043匹、最低は平成18年の54匹であった。捕獲数のばらつきを標準偏差で求めると、平均値±標準偏差値は392±277匹であった。このことから、捕獲数、すなわち飛来数は年度によって大きく異なることが明らかになった。

 次いで、各年度の越冬飛来集団の飛来(捕獲)回数と捕獲数を調べた(図2)。最初の集団が現れる日は年次によって異なり、最も早いときは平成21年の11/9で、最も遅い日は平成24年の12/6日であった。飛来が一度ののみ大量にみられた年次は平成16年、18年、28年などの3回で、連続的にみられた年次は平成17年、19年、20年、21年、22年、23年、24年、25年、26年、27年、29年などの11回であった。それらの事象を一覧表にまとめた(表2)。

平成16・17年

平成18・19年

平成20・21年

平成22・23年

平成24・25年

平成26・27年

平成28・29年

図2 ナミテントウの各年次における捕獲日時と捕獲数の関係

 ナミの飛来は、11/21~11/25の5日間を中心として起こることが分かった(表1)。また、飛来が数十日に亘って続く場合と1日のみの場合があったので、前者の場合は複数の繁殖地から飛来し、後者の場合は一カ所の繁殖地からであると考えられた。

 これらのことから、ナミの越冬飛来集団の飛来数と飛来回数は、繁殖集団の個体群の大きさと個体間の発育の差に依存し、繁殖特性によると思われた。

年次別斑紋型分布比率の変動

 ナミ越冬飛来集団は数十から数百の個体群が一カ所に集中して移動することが分かった。このとき、集団を構成する個体群が異なる斑紋型の混成集団であるのか否か興味があるところだ。そこで、各年次の斑紋型分布比率をまとめた(表2)。

 過去15年間の成虫斑紋型分布比率の平均値±標準偏差は二紋型76.3±2.4%、四紋型9.3±2.5%、まだら型1.7±0.8%、紅型12.8±2.2%であり、各年次の分布比率はすべてこの範囲内に入っていた。このことから、越冬飛来集団はあらゆる繁殖地においてヘテロ個体群で生息して、越冬場所へ集団で飛翔することが明らかになった。

日別飛来数と気象条件および斑紋型分布比率の関係

 ナミの飛来行動を促す要因を知るため平成17年、18年、19年の3年間のナミ捕獲時の天候および斑紋型分布比率の変動を調べた(表3)。

 ナミの飛来時の気候は快晴・無風であるが、雲が出て陽が陰り、風が吹くとナミは途端に飛んで来なくなった(表3:平成19-12/2)。また、この時の気温は最低5℃前後、最高15℃前後であった。この寒暖の温度差によって、落ち葉などの下にいたナミは家屋の白壁から発する熱線に誘引されて飛翔行動を起こすものと考えられた。

 

時刻別斑紋型分布比率の変動

 ナミが遠赤外線に誘引されて越冬飛翔するならば、二紋型などの黒化型と紅型の非黒化型間の紋様の違いが飛翔行動に影響を与え、分布比率に違いが表われるのだろうか。そこで、平成17年11/24の大飛来集団の時刻別飛翔数(捕獲数)と斑紋型の分布比率を調べた(図3および4)。1時間あたりの捕獲数をみると、正規分布を示し、ひとつの山形であった。これは、ナミは日射量の多少によって飛翔すると思われた。とくに、午後3時以降はまったく飛来が見られなかったことは、白壁から反射する遠赤外線の減少によると思われた。一方、時刻別の斑紋型分離比率はほぼ一定で、変化しなかった。これは、黒化型と非黒化型も熱線に対しては同じように反応したということを意味する。そこで、メラニン系色素によってエネルギーを吸収して活発な行動を促すというthermal melanism 説は否定された。このことは、むしろ、遠赤外線受容器をもつある種の甲虫類の走熱性メカニズムと類似するものと思われた。

考察

 ナミの越冬飛翔集団の行動について定点観測を実施することができたことは幸運であった。この長期間の野外調査によって、捕食性ナミはどのような繁殖・生存戦略をとるのかを垣間見ることができた。

 そのひとつの発見は、ナミは、冬になる前にばらばらに生息していた個体群が外温の急激な変化(寒暖の差)に反応して越冬場所へ集合することである。これは、「飛んで火にいる夏の虫」の譬えがあるように、虫の生得的な習性(「走熱性(thermotaxis)」)であると考えられる。ナミの熱線に対する電気生理学的な反応性については不明であるが、昆虫における赤外線受容器(infrared receptor organ: thermoreceptor)は森林火災によって誘導される甲虫の一種、Acanthocnemus nigricans で発見されている(Schimitz H., et. al., 2002, Kreiss E., et. al., 2002)。ナミが天道虫と呼ばれ、太陽に向かって飛ぶ虫であれば、赤外線に対する受容器をもっていると思われる。

 もう一つは、ナミの成虫斑紋型のthermal melanism(「体温調節説」と訳されている(鶴井・西田、2020))についての疑問が晴れたことである。斑紋型にはメラニン色素系の二紋型などの黒化型(melanics)と紅型の非黒化型(non-melanics)がある。彼らの行動について黒化型が太陽エネルギーを効率的に吸収して活発な行動をすると云われている(Brakefield. P M., 1984)。今回の飛来集団の時刻別斑紋型分布比率の変動は日射量に関係なく一定の割合であることが分かった。このことから、ナミの越冬飛翔行動は成虫鞘翅のメラニン系色素とは関係がないことが明らかになったのだ。ナミの行動は、前述のように赤外線受容器によって制御されているのであろう。

 ナミは何故集団で越冬するのだろうか。年次別成虫斑紋型分布比率が恒常的であるということは、翌春にアブラムシが発生したとき、越冬集団はただちに繁殖集団となって次世代の子孫を育て、それが越冬集団の原資となることを意味している。晩秋にばらばらに生息していたナミが集団として越冬するメリットは、そのことがランダム交尾を可能にして互いの遺伝子を相互交換し、種の多様性を維持する仕組みとなっているのだろう。この‟したたかな繁殖戦略”はナミが長い進化の過程で獲得したと思われる。

 次回は、ナミ越冬集団が繁殖集団となってどのように子孫を残すのかについて集団遺伝学的な知見を含めて説明する。

文献

  1. 谷岸一紀(1976)ナミテントウの越冬 インセクタリウム 13(12) 294-298.
  2. 高橋敬一(1995)アルファルファ草地のテントウムシ ―ナナホシテントウとナミテントウ インセクタリウム 37(3)64-69.
  3. 近 雅博・佐藤俊幸・小原嘉明(2003)社会行動と生存 p361 In 三橋 淳(総編) 昆虫学大辞典 朝倉書店
  4. 駒井 卓・千野光茂・星野安咨(1956)ナミテントウの集団遺伝学 p45-60 In 駒井 卓・酒井寛一(編)集団遺伝学 培風館.
  5. 木村 滋(2008)つくば市におけるナミテントウの越冬・飛来成虫の観察―今、小さな生息地で何が起こっているのか― 蚕糸・昆虫バイオテック 77, 21-27.
  6. Schmitz h., Schmitz a., S. Trenner(2002)A new type of insect infrared organ of low thermal mass. Naturwissenschaften 89, 226-229.
  7. Kreiss E., Schmitz H., M. Gebhardt(2002)Electrophysiological characterization of the infrated organ of the Australian “Little ash beetle”Acanthocnemus nigricans (Coleopteran, Acanthocnemidae) Comp. Physiol., 193,729-739.
  8. 鶴井香織・西田隆義(2010)ハラヒシバッタ(バッタ目ヒシバッタ科)における黒斑型頻度の緯度クライン Bull Osaka museum Nat. His. 64. 19-24.
  9. Brakefield P M.,(1984)Ecological studies on the polymorphic ladybird Adalia bipunctata in the Netherlands.Ⅱ.Population dynamics, differential timing of reproduction and thermal melanism. J. Animal Ecol, 53. 775-790.

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